鉛筆が出来る以前は、この世界に鉛筆は無かったわけで。
当たり前の話ですけど、「鉛筆」のデッサンは鉛筆以外の筆記具で行われたわけです。
デザインするモノをデザインするという行為。
私が、文房具にとても創造的な匂いを感じる理由のひとつです。
「鉛筆」の元祖は、現在のように文字やイラストを書くためのものではなく、文字を真っ直ぐ書くための「罫線」をパピルスや羊皮紙に引くための道具でした。
そして、この道具をギリシャ人は分けて書くことを意味する「パラグラフォス」と呼び、ローマ人は「プロダクタル」と呼びました。
「パラグラフォス」は、段落を意味する「パラグラフ」の語源であるとされます。
「罫線」を引き、段落を形作る道具の名前が、段落そのものを意味するようになったというわけです。
一方で、古代ローマ人が呼んだ「プロダクタル」。
「プロ(pro)」はラテン語で「前へ」を意味するそうです。
そして、「ダクタル」は「ダクト(duct)」、「導く」を意味します。
すなわち、「プロダクタル」とは、「前へ、導く」ことを意味します。
罫線を引くことにより、文字や文章を「前へ、導く」。
だから、その道具を「プロダクタル」とローマ人は呼んだのでしょう。
そして、私はここでふと気になりました。
「プロダクタル」って、もしかしたら「プロダクト」の語源なんじゃないか?
日本の近代建築を世界レベルまで引き上げた父と言われる建築家 丹下健三氏の著書「一本の鉛筆から」というタイトルが示すように、この世界の近代的な多くの生産物=プロダクトは、「一本の鉛筆」(あるいは1本のペン)から誕生しています。
この世界に誕生する「プロダクト」をデザインする筆記具=「鉛筆」が、「プロダクト」自体の語源だったのかもしれない・・・、という仮説です。
(私は語学の専門家ではないのであくまでも仮説です。)
とはいえ、人間の思考や発想を「前へ、導く」文房具。
アイデアを頭脳から導き出す、「鉛筆」。
たまには、手にしてみるのもいいかもしれません。
木や黒鉛の、自然な良い香りもしますしね。
文房具カフェ 代表 奥泉 徹