「文房具ブームって何だろう?」 ( 第2回/全3回) 文房具カフェ 代表 奥泉 徹

 

 

〜第2回〜 「小さな贅沢」

 

 

企業が社内で使用するオフィス事務用品のコスト削減を行ったことで、会社からの支給品が減り、個人が自分で文房具を購入する機会が増えました。

 

そして、個人ユーザーは「どうせ自分のお金で買うのならば、もっとデザインの良いものを」、「多少高くても、おしゃれなものを」、「より機能的で使い勝手のよいものを」というように、個人のこだわりやアイデンティティを表現する、あるいは自分自身で再認識するアイテムとして、文房具を捉えるようになりました。

 

また、バブル景気の頃のように、何十万円もする高級ブランドのバッグを買い求めたり、海外旅行へ頻繁に出かけたりするといったライフスタイル自体に、「憧れない」若者の増加という変化も背景にあります。

 

このような消費者の意識・心理の変化は、日本だけでなく、多くの先進国でここ数年顕著に見られます。

 

 

50カ国以上、四万超のブランドデータを蓄積し、市場における消費者の意識、嗜好、価値観などについて分析しているBVA(ブランド・アセット・バリュエーター)の調査によれば、2005年から2009年にかけて、商品やサービスに消費者が求める価値は、劇的に変化しています。

 

例えば、一昔前に日本でも、もてはやされ期待された「富裕層向けの商品やサービス」は、BVAの調査では60%も評価を下げ、一方で「親切で思いやりがある商品やサービス」は391%も評価が増加したそうです。

 

 

2008年のリーマンショック以降、消費者、特に若者はライフスタイルを大きく変化させ、商品やサービスに対して新たな価値観を基軸に、お金を使うことを考えはじめたのです。

 

 

万年筆、ライター、宝飾品の世界的総合メーカーであるSTデュポンのCEO アラン・クルヴェ氏は、「スモールラグジュアリー(小さな贅沢)」を人々が求めはじめていると表現しました。

 

 

等身大、身の丈に気持ちよく合った、爽やかな消費とでも言えるかもしれません。

 

 

自らを「飾る」ために商品やサービスにお金を使うのではなく、自らを今よりもっと本質的に「良くする」、「賢くする」、「好きになる」ために、お金を使うようになったのではないか?と私は考えています。

 

そんな価値観や心理の変化があったとき、文房具が持つ価値や魅力が再認識されたのでしょう。

 

 

新しいスケジュール帳を買い求めたとき、「毎日をもっと充実させたい」、「もっと自分自身を好きになれるような、時間の使い方をしたい」と考えませんか?

 

 

そんな文房具が持つチカラが、自らを今よりもっと本質的に「良くしたい」、「賢くしたい」、「好きになりたい」という個人の心に働きかけて、文房具の個人需要を活発化させたのでは?と私は考えています。

 

 

 

続・・・(次回は、文房具メーカーの売上高対研究開発費の比率による業績の変化や、新興メーカーの躍進などを背景に、文房具ブームを考えてみたいと思います)